大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和41年(う)2124号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

控訴趣意第一点について。

所論は、昭和二五年東京都条例第四四号、集会、集団行進および集団示威運動に関する条例(以下、この名称を、公安条例といい、集会、集団行進および集団示威運動を、集団行動という。)は、憲法に違反するものであり、かつ、公安条例の運用が、昭和三一年一〇月二五日都公委規程第四号「東京都公安委員会の権限に属する事務処理に関する規程」、前同日訓令甲第一九号「東京都公安委員会の権限に属する事務の部長等の事務処理に関する規程」、昭和三五年一月八日東京都公安委員会決定「集会、集団行進および集団示威運動に関する条例の取扱について」、および昭和三五年一月二八日警視総監の通達甲(備備三)第一号(なお、この題名は、「集会、集団処進および集団示威運動に関する条例の取扱について」というのである。)により、末端の警察官の裁量に委任されているのは、違憲であるにもかかわらず、右条例そのものの違憲性と条例運用の違憲性を解明せず、被告人に対し有罪の認定した原判決は破棄を免れないという旨の主張に帰する。

よつて案ずるに、公安条例が、憲法第二一条に違反しないこと、および公安条例第五条の規定が、憲法第三一条に違反しないことは、すでに最高裁判所の判例とされているところであり(前者につき、昭和三五年(あ)第一一二号同年七月二〇日大法廷判決、刑集一四巻九号一二四三頁、後者につき、昭和四〇年(あ)第一〇五〇号同四一年三月三日第一小法廷判決、刑集二〇巻三号五七頁各参照)、当裁判所は、本件についてもこれらにしたがうのが相当であると解する。そして、原審第一七回公判調書中、証人茂垣之吉の供述記載および前記規程などによれば、東京都公安委員会は、集団行動に対する不許可処分、許可の取消処分および重要特異な事項についての許可処分は、みずからの手で処理し、その他の事項についての許可処分および右許可処分の際における条件の付与については、事務の迅速かつ、能率的な運営をはかるため、警視総監以下の警察官をして、公安委員会の名義で、その事務処理を代行させ、その結果を毎日とりまとめ、東京都公安委員会の承認を受けていたことが認められるが、警察法所定の都公安委員会と警視庁との各組織権限および都公安委員会と警視庁との関係に徴すると、都公安委員会がその責任において憲法の保障する表現の自由を不当に侵害しないかぎり、その権限に属する右の程度の事務の一部を、右のとおりの理由により警視総監以下の警察官に処理させることは許されるものと解するのを相当とする。もつとも、警察官に無条件の許可事務を処理させる場合、これが表現の自由を不当に侵害するという問題を生じないことは明らかであるが、許可の際に条件を付する事務を警察官に処理させる場合においては、警察官が著しくその権限を濫用もしくは誤用し、公共の安寧の保護を口実に、不当に厳しい条件を付することがあるとすれば、警察官の裁量により、集団行動に対し事実上不許可処分をすると同様の結果を生ぜしめ、表現の自由を不当に侵害することとなるから、この点を特に戒心すべきこともとよりである。しかし、記録に徴すると、本件許可に対する条件の付与が憲法の保障する表現の自由を侵害するように不当なものであつたとは認められず、その他右公安条例の運用につき違憲のかどがあつたと認められるような状況はない。それゆえ、論旨は理由がない。(飯田一郎 遠藤吉彦 吉川由己夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例